甲子園の季節

季節と言えば夏。夏と言えば甲子園。よって今は甲子園の季節である。

 

普段はニュース以外のテレビを観ないが甲子園とあっては話が別。強い日差し、大勢入った観客席、日焼けした高校球児。(たいていの場合、「児」という文字を使うのが申し訳ないほど大人びた顔つきと体格をしている。どこの高校だったか忘れたが、若い監督かと思いきや主将の三年生でたまげたことがある)時折熱の入る実況とわりかしニュートラルな解説。バットに白球が当たる音の広がり、歓声に拍手、各校の校歌。それらにまぎれて聞こえてくる吹奏楽。私は洋楽が好きなので、歓声や実況に混じってqueendeep purpleが聞こえてくるとそれだけでうれしい。

どっちが勝つやら分からない緊迫の接戦などでsmoke on the waterが聞こえた時は尚更であり、あの曲調に乗せられる形であたかも関係者であるかのようにどぎまぎしつつ画面を見てしまう。queenにせよdeep purpleにせよ、自分たちの曲が遠い国の高校野球の大会で頻繁に用いられているとはつゆほども知らないだろうが。

 

そんなわけで甲子園のことを目にも耳にも楽しい夏の風物詩、と思っているが、実際のところ野球に造詣が深いわけではない。運動が得意ということもない。むしろ万年運動音痴で集団で行う競技などもってのほか、という性格である。

とはいえ甲子園は好きだ。運動好きでも野球好きでもなく、普段はスポーツ観戦の趣味もなく、画面の向こうの高校球児が親戚の子などどいう特別の事情もない。でも、好きだ。

でも、ではなく「だから」なのかもしれない。日頃の自分と一切接点のない事柄だからこそ非日常のイベントとして楽しんでいるのだろう。これで少しでも野球をやったこと、というよりやらされたことがあるならば野球に対してなにかしら嫌な思い出が形成され、夏にテレビで甲子園を観ようとは思うまい。

自分ではしないし、できないし、しようとも思わないこと。そう書いてしまうとなんだが寂しいような気もするが、そういう大きな隔たりがあってこその楽しみ方というのもある。

 

ところでふと思ったが、甲子園で乱闘騒ぎってあるんだろうか。

べつだん詳しいわけではないので見落としているだけの可能性もあるが、毎年観ていてもそんな光景が画面に映った記憶はない。

「お~っとこれはデッドボールです!バッター、ピッチャーに詰め寄ります!」

「○○工業××監督、審判の制止を振り切ってマウンドに向かっています」

「△△大付属□□監督も出てきましたね。審判になにやら怒鳴っているようです」

「あーっ!!バッターがピッチャーを殴ってしまいました!ベンチから一斉に両校の選手が走り出てきます!乱闘です!これは乱闘です!」

「これはいけませんねえ」

なんて、見たことがないのである。

もちろんそんなものあって欲しくはない。ないならないでいいのだが、気になったので検索してみた。「甲子園 乱闘」という検索ワード自体がすでに違和感の塊である。しかし案の定めぼしい結果は出てこない。過去に一度だけあったとかなかったとか、その程度である。

やはり高校球児はしっかりしているのだなあ。大人びた様子なだけはある。高野連という組織もなにやら厳しそうなイメージだし、乱闘なんて起こりえないのかもしれない。

 

しかしそうなってくると、プロ野球で乱闘が起きるのがおかしな話に思えてくる。彼らは高校生よりよほど年上なのだから、大人びているのではなく大人なのだ。それなのに乱闘と言えば通常プロ野球で起こったものを指す。高校生だってやらないのに、いい大人がなぜそんなことをするのか。これだから大人って醜い!大人なんて大っ嫌い!

……と、思春期の子供のような締め方をするのも性に合わない。乱闘にもそれはそれで事情があるに違いない。

私よりは多少野球に詳しい人間に訊いてみたところ、「プロはデッドボールなんか投げないってのが当たり前なんだよ」とのこと。であるなら、デッドボールで腹が立つのは仕方ないことかもしれない。プロのくせに何してくれてんだ!ふざけんなよ!痛いじゃねえか!という感じだろうか。

それに彼らはプロである以上、野球をすることでお金を得ている。自身の成績が収入に直結するというのに、デッドボールなどやられた日には腹も立つだろう。そのせいで怪我をした日には収入どころか選手生命だって危ぶまれるのだから。

高校球児の甲子園もシビアな勝負の世界だろうが、プロ野球選手もまた人生をかけて勝負をしているのだなあ。私には全く縁のない世界であるが、だからこそ純粋に「すごいな、すごいな」と思える。

 

とは言いつつも、乱闘による怪我のリスクはデッドボールのそれと同じくらい高いのでは……という気がしないでもない。乱闘に持ち込めるということはデッドボールで怪我をせずに済んでいるのだろうから、それ以上積極的に怪我をしに行こうとせずともよいのでは……。

野球に縁遠い人間なので、ついついそんなことを考えてしまう。